各種遺言について、ちょっと詳しく。

① 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
■ 概要
遺言者が全文を自分で書く遺言。もっとも手軽で古典的。
■ 手続きの仕方
- 全文を自書
- パソコン・ワープロ不可
- ただし 財産目録だけはパソコン可(各ページ署名押印が必要)
- 日付を自書
- 氏名を自書
- 押印(認印で可)
※証人不要
■ 長所
- 費用がほぼゼロ
- 思い立ったらすぐ作れる
- 内容を誰にも知られない
■ 短所
- 形式不備で無効になりやすい
- 紛失・改ざん・隠匿リスク
- 相続開始後に家庭裁判所の検認が必要
- 高齢・認知機能低下があると争われやすい
② 自筆証書遺言の「法務局保管制度」
■ 概要
自筆証書遺言を、法務局が預かってくれる制度
(2020年7月開始)
■ 手続き
- 遺言書を自筆で作成
- 本人が法務局へ出頭
- 本人確認(運転免許証など)
- 保管申請(手数料:3,900円)
※代理人不可
■ 保管制度を使うメリット
- 紛失・改ざんリスクなし
- 検認が不要
- 法務局で形式チェック(軽微だけど大きい)
- 相続人が「遺言があるか」を照会できる
■ 注意点(意外と重要)
- 内容の有効性まではチェックしない
- 認知症が疑われると、やはり争われる
- 法務局は「証明人」ではない
- 書き直しは毎回再提出
「安く・安全に保管したい」人向け
③ 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
■ 概要
公証人が作る遺言。実務では最強クラス。
■ 手続き
- 公証役場に事前相談
- 必要書類提出
- 戸籍
- 財産資料(登記簿、通帳コピーなど)
- 証人2名立会い
- 公証人が読み上げ → 署名押印
- 原本は公証役場保管
■ 長所
- 形式不備で無効になることがほぼない
- 紛失・改ざんなし
- 検認不要
- 紛争になりにくい
- 高齢・病気でも作成しやすい
■ 短所
- 費用がかかる
(例:財産3,000万円で 5〜8万円前後) - 証人が必要(内容は知られる)
- 手続きに多少時間がかかる
「争いを確実に防ぎたい」「高齢」「財産が多い」なら第一候補
④ 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)
■ 概要
内容は秘密のまま、公証人に「遺言があることだけ」証明してもらう方式。
■ 手続き
- 遺言書作成(自書でなくてもOK)
- 封印
- 公証役場で
- 公証人+証人2名
- 自分の遺言であることを申述
■ 長所
- 内容を誰にも見せずに作れる
- パソコン作成も可能
■ 短所(正直…)
- 検認が必要
- 形式ミスのリスクあり
- 紛失リスクあり
- 費用が公正証書より安いわけでもない
実務ではほぼ使われません
⑤ 3つの遺言の比較
| 項目 | 自筆 | 自筆+法務局 | 公正証書 | 秘密証書 |
|---|---|---|---|---|
| 費用 | ◎ | ○ | △ | △ |
| 手軽さ | ◎ | ○ | △ | △ |
| 無効リスク | × | △ | ◎ | × |
| 紛失防止 | × | ◎ | ◎ | × |
| 検認 | 必要 | 不要 | 不要 | 必要 |
| 実務評価 | △ | ○ | ◎ | × |
行政書士も、遺言に関係来る人も困ってしまう事例↓
なお、遺言について紛争状態になったときは行政書士の手を離れ、弁護士案件になります。
① 「認知症だった」vs「意思能力はあった」問題
(※争い件数ダントツ1位)
実例
- 90代女性
- 自筆証書遺言で「長男に全財産」
- 作成時期の直前・直後に認知症の診断あり
- 次男が「意思能力なし」として無効確認訴訟
結果
👉 遺言無効
▶ なぜ争われ、負けた?
- 自筆証書遺言
- 医師の診断書に「中等度認知症」
- 作成当日の医学的裏付けがない
- 公的関与(公証人・法務局)がゼロ
裁判所は
「遺言内容を理解していたとは認めがたい」
と判断。
▶ 回避策(超重要)
✅ 公正証書遺言にする
✅ 作成前後で
- 医師の診断書(意思能力あり)
- 受診記録
を残す
✅ 少なくとも法務局保管制度を使う
💡実務の本音
高齢者 × 自筆証書 × 偏った内容
→ ほぼ「地雷」
② 「字が違う」「本人が書いてない」問題
▶ 実例
- 自筆証書遺言
- 財産目録が達筆
- 本文は震えた文字
- 相続人が「代筆だ」と主張
結果
👉 一部無効
▶ なぜ争われた?
- 筆跡が明らかに不自然
- 財産目録の署名押印が一部欠けていた
- 作成経緯の説明ができない
▶ 回避策
✅ 財産目録は
- 各ページに署名押印
- 本文と同じ筆記具
✅ 作成時の - メモ
- 日記
- 家族への説明記録
を残す
💡法務局保管なら
→ 形式ミスはかなり減る
③ 「遺留分侵害」から全面紛争へ
▶ 実例
- 父が「事業を継いだ長男に全財産」
- 次男・長女が遺留分請求
- 長男が「介護した」と反論
結果
調停 → 訴訟 → 家族断絶
▶ 問題点
- 遺留分を完全無視
- 感情的説明のみ
- 金銭的調整策がゼロ
▶ 回避策
✅ 遺留分を侵害するなら
- 理由付記を書く
- 「なぜその分け方か」を明確に
✅ 代償金・生命保険で調整
✅ 公正証書遺言で - 公証人から遺留分の説明を受ける
💡裁判所は
「理由が合理的か」をかなり見る
④ 「内容が不明確」問題(地味だけど多い)
▶ 実例
- 「自宅不動産は長男に」
- 登記上、
- 土地:父名義
- 建物:母名義
結果
👉 解釈を巡って紛争
▶ なぜ?
- 不動産の特定不足
- 登記事項証明書未確認
- 専門家未関与
▶ 回避策
✅ 不動産は
- 登記簿通りに記載
- 地番・家屋番号まで書く
✅ 公正証書遺言 or 専門家チェック
⑤ 「新しい遺言が出てきた」問題
▶ 実例
- 公正証書遺言あり
- 死後に日付の新しい自筆証書遺言が発見
結果
👉 真正性を巡って大揉め
▶ 回避策
✅ 遺言は一元管理
- 法務局保管
- 公証役場
✅ 古い遺言は回収・破棄
✅ 公正証書で「前の遺言を撤回する」と明記
⑥ 実務家目線・争いを防ぐ黄金ルール
🔑 これを守れば揉めにくい
- 高齢者は公正証書
- 偏った内容ほど
- 理由付記
- 証拠残し
- 不動産は登記ベース
- 遺留分は「無視しない」
- 遺言は保管場所を一本化
行政書士の一言(本音)
「遺言がある=争いが防げる」ではない
「作り方」次第で、むしろ火種になる
① 【基本形】法定相続どおり+理由付記
👉 もっとも安全・争いにくい王道
■ 文例
私は、私の死亡により相続開始する一切の財産について、
民法に定める法定相続分に従って相続させるものとする。【付言事項】
私は、生前、家族全員からそれぞれ支えられて生活してきた。
特定の相続人を特別に優遇または不利益に扱う意図はなく、
今後も相互に協力し、円満に相続手続きを進めてもらいたいと考えている。
■ なぜ争われにくい?
- 分配が法定相続分どおり
- 不公平感が出ない
- 付言事項で「感情のクッション」を置いている
- 裁判所が介入する余地がほぼない
- 「遺言はあるけど揉めたくない」人の最適解
② 【偏りあり】一人に多く渡すが、理由を具体化
👉 実務で一番多い・一番揉めやすいケースの回避形
■ 文例
私は、次のとおり遺言する。
第1条
長男〇〇には、別紙財産目録記載の自宅不動産および預貯金〇〇円を相続させる。第2条
次男△△および長女□□には、それぞれ預貯金〇〇円ずつを相続させる。【付言事項】
長男〇〇は、長年にわたり私と同居し、
日常の介護、通院の付き添い、生活全般の支援を継続して行ってくれた。本遺言において長男〇〇の取得分が多くなっているのは、
これらの貢献に対する感謝の気持ちを形にしたものであり、
他の相続人を軽視する意図は一切ない。次男△△および長女□□には、
本趣旨を理解し、円満な相続手続きを行ってもらいたい。
■ なぜ争われにくい?
- なぜ偏っているかが明確
- 感情論でなく「事実(介護・同居)」を列挙
- 裁判所は 「合理的理由あり」
と判断しやすい - 遺留分請求が来ても、全面対立になりにくい
⚠
「長男には世話になったから」だけだと弱い
→ 具体性が命
③ 【遺留分を意識】侵害前提+配慮型
👉 争われやすいが、最悪を防ぐ形
■ 文例
私は、次のとおり遺言する。
第1条
事業用不動産一式および事業に関する権利義務は、
長男〇〇に相続させる。第2条
次男△△および長女□□には、
預貯金〇〇円ずつを相続させる。【付言事項】
本遺言は、事業の継続性を最優先に考えた結果である。事業用不動産および事業資産を分散させた場合、
経営が困難となり、結果として全相続人の不利益となることを
私は強く懸念している。なお、遺留分に関する権利行使がなされた場合には、
相続人間で誠実に協議し、円満な解決を図ってもらいたい。
■ なぜ「比較的」争われにくい?
- 遺留分を完全無視していない
- 「事業継続」という客観的理由
- 感情的対立より金銭調整に話が移りやすい
💡
遺留分請求は防げないが
👉 戦争を調停レベルで止めやすい
④ 【単身・相続人少】シンプル+締めの一文
👉 無用な誤解を防ぐ
■ 文例
私は、私の死亡により相続開始する一切の財産を、
配偶者〇〇に相続させる。【付言事項】
本遺言は、私の熟慮の上での最終的な意思であり、
他者の影響や強制によるものではない。
■ なぜ効く?
- 「意思能力」「強要」を争う余地を減らす
- 裁判でよく引用される一文
⑤ 争われにくい遺言に共通する【黄金フレーズ】
✔ よく効く言葉
- 「長年にわたり」
- 「具体的な行為」
- 「感謝の気持ちを形にした」
- 「他の相続人を軽視する意図はない」
- 「円満な解決を望む」
❌ 危険な言葉
- 「当然」
- 「当たり前」
- 「どうせ〇〇は要らない」
- 「迷惑をかけたから少なくする」
お客様に注意してほしい・本音のまとめ
遺言は「法律文書」だが、争いを防ぐのは「理由」
配分より、説明の質で勝負が決まる。
① 争われにくい遺言の結論(まずこれ)
👉 ポイントは配分より「理由」
👉 「なぜこの分け方か」をやさしい言葉で説明してある遺言は、揉めにくい。
② いちばん安全な形(王道)
法定相続分どおり + ひとこと理由
「家族みんなに支えてもらったので、
特定の人をえこひいきするつもりはありません。
円満に手続きを進めてください。」
✔ 不公平感がない
✔ 裁判になる余地がほぼない
👉 「揉めたくない人の最適解」
③ 偏りがある場合(ここが一番大事)
多く渡す人がいるなら、必ず理由を書く
「長男は、
・長年同居して
・介護や通院の付き添いをしてくれました
その感謝の気持ちとして多く渡しています。
他の相続人を軽く見ているわけではありません。」
✔ 「なぜ?」に答えている
✔ 感情じゃなく事実を書いている
✔ 裁判所も納得しやすい
👉
「世話になったから」だけは弱い
→ 具体的に書くのがコツ
④ 遺留分が気になるとき
無視しない・ケンカをあおらない
「事業を続けるため、この分け方にしました。
遺留分の話が出たら、話し合いで解決してください。」
※行政書士(注)
通常は円満に遺言書の作成が終わります。
ただし、遺言について紛争状態になったときは法令の規定により行政書士は関与できなくなります。
このF行政書士業務以外に触れている部分もありますが、当事務所では司法書士や税理士との連絡を緊密に行っており、紛争の無いように、努めております。
行政書士業務の範囲を超えた時には、他士業を紹介します「

