遺言書連載4回目(特定の相続人に相続させない)

遺言書を作成する際に、特定の相続人に相続させない、つまり「相続させない」「遺産を与えない」と明記するケースは、いくつかの状況で見られます。ただし、日本の民法では遺留分制度があるため、一定の相続人(配偶者、子、直系尊属)には最低限の相続分を保障する仕組みがあります。その点をふまえた上で、主なケースを以下に整理します。

■ 特定の相続人に相続させない主なケース

1. 不仲・関係断絶

  • 長年にわたり関係が悪く、交流がない。
  • 親の介護や支援をまったくせず、他の相続人に負担がかかっていた。
  • 家族への暴力や迷惑行為があった。

2. すでに生前贈与をしている場合

  • 他の相続人よりも多くの財産を生前に渡しており、バランスを取るために遺産は与えないとするケース。

3. 特定の相続人が反社会的行為・非行に関与

  • 犯罪行為をした、あるいは他の家族に重大な損害を与えた。
  • 遺産を与えることで社会的・道義的に問題があると判断されるケース。

4. 遺産を特定の人・団体に集中させたい

特定の団体(慈善団体など)に寄付したいため、他の相続人には遺産を与えない。

例えば、長男に事業を継がせるため、財産を集中させたい。

配偶者の生活を安定させるため、すべてを配偶者に相続させたい。

■ 注意すべきポイント

遺留分の請求リスク

上記のように遺産を与えないと書いても、遺留分権利者(配偶者・子・直系尊属)は、遺留分侵害額請求をすることが可能です(民法1046条~)。

たとえば:

  • 子どもが2人いて、1人にすべて相続させると書いた場合でも、もう1人は遺留分(法定相続分の1/2)を請求できる。

廃除(はいじょ)という制度

遺言書で、特定の相続人を**相続人の資格ごと剥奪する「廃除」**を求めることも可能です(民法892条)。ただしこれは家庭裁判所の許可が必要で、次のような条件が必要です:

被相続人への虐待、重大な侮辱、著しい非行など。

✅ ステップ1:有効な遺言書を作成する

まずは、法的に有効な形式の遺言書で、明確に「相続させない」意思を示す必要があります。

遺言書の形式(主な2つ)

種類特徴
自筆証書遺言・全文を自筆で書く(2020年から財産目録のみパソコン可)
・署名・押印が必要
・死亡後、家庭裁判所で「検認」が必要
公正証書遺言・公証役場で公証人に作成してもらう
・証人2名が必要
・原本が公証役場に保管される(検認不要)

確実性・安全性を求めるなら公正証書遺言がおすすめです。

✅ ステップ2:「相続させない」旨とその理由を記載する

以下のように明確に書きましょう:

第○条 長男○○○○には、いかなる財産も相続させない。
理由:長年にわたり交流がなく、私の介護・援助にも一切関与しなかったため。

※理由を書くことは必須ではありませんが、トラブル防止のために推奨されます。

✅ ステップ3:遺留分対策を検討する

法定相続人(配偶者・子・直系尊属)には遺留分請求権があります。
「相続させない」と書いても、以下のように一部を請求される可能性があります。

例:子が2人いる場合

  • 法定相続分は1/2ずつ
  • 遺留分はその半分 ⇒ 各1/4

つまり、完全にゼロにすることは難しく、相続させない子から**「遺留分侵害額請求(お金で請求)」**をされるリスクがあります。

対策の例:

【重要】廃除(はいじょ)制度の活用(下記)

生前贈与や生命保険など「遺産外」で配分調整を図る

相続人との話し合いで納得してもらう

✅ ステップ4:必要に応じて「相続人の廃除」を申し立てる

これは相続人の資格そのものを剥奪する制度で、以下の要件が必要です(民法第892条):

廃除できる条件(いずれか):

  • 被相続人への虐待
  • 著しい侮辱
  • その他著しい非行

廃除の手続き方法:

方法内容
生前に申し立て本人が生前に家庭裁判所に「廃除申立」を行う(審査が必要)
遺言で指示「○○を廃除する」と遺言に書き、死後に遺言執行者が家庭裁判所に申し立てる

※家庭裁判所の認可がないと、廃除は成立しません

✅ ステップ5:遺言執行者を指定しておく(推奨)

「相続させない」内容が含まれる遺言は、他の相続人とのトラブルが生じやすいため、遺言を確実に執行する人(=遺言執行者)を指定するとスムーズです。

○条 本遺言の執行者として、〇〇〇〇(住所・氏名)を指定する。

✍ まとめ:法的に確実に「相続させない」を実現するための流れ

必要に応じて専門家と連携

公正証書遺言を作成(「相続させない」と明記)

遺留分のリスクをふまえて検討

廃除制度の活用を検討(必要なら家庭裁判所へ)

遺言執行者を指定しておく

生前贈与でバランスを取る

● 概要

特定の相続人に生前のうちに財産を多く与えておき、遺言で他の相続人に多めに相続させることで、最終的なバランスを調整する方法です。

● 目的に合うケース

  • 長男にはすでに自宅を生前贈与した
  • 次男にはまだ何もしていないので、遺言で多く相続させたい

● 注意点:特別受益の問題

生前贈与をした財産は、「特別受益」として遺産に持ち戻される可能性があります(民法903条)。これは、相続時に不公平が起きないようにする制度です。

● 対策:

遺言に明記しておくことで、持ち戻しを防げます。

オマケ:贈与税対策の基本ポイント

贈与税は、1月1日~12月31日の1年間に贈与された財産に対して課税されます。
ただし、以下のように 非課税枠や特例 をうまく活用することで、負担を抑えることができます。

① 暦年課税制度(年110万円の非課税枠)

● 内容:

  • 1人あたり、年間110万円までの贈与は贈与税がかかりません。
  • 複数年に分けてコツコツ贈与すると、大きな節税になります。

● 活用例:

  • 毎年、子や孫に110万円ずつ贈与(例:子2人・孫2人に贈与→年440万円まで非課税)
  • 例えば10年間続ければ、最大4,400万円まで非課税で渡せることに。

● 注意点:

毎年契約書を作るなどして贈与の「意思」を明確にしておくことが大事!

「定期贈与(毎年同じ金額を決まった日に贈る)」と見なされると課税される恐れあり。

② 相続時精算課税制度(2,500万円まで贈与税なし)

● 内容:

  • 60歳以上の親や祖父母 → 18歳以上の子や孫に贈与する場合
  • 2,500万円まで贈与税がかからない(超えた分は一律20%)

● ただし注意点:

  • 相続時に全ての贈与分を加算して相続税を計算される
  • 一度この制度を選ぶと、以後その人には暦年贈与(110万円枠)が使えなくなる

● 向いているケース:

相続税を払う予定がない or 相続税の基礎控除内に収まる人

早めにまとまった資金を渡したい(住宅購入、事業資金など)

③ その他の特例

教育資金の一括贈与(最大1,500万円まで非課税)

  • 子や孫の教育資金を「信託銀行経由」で一括贈与できる
  • 使い道は学校・習い事・留学費用などに限る

結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円)

  • 結婚費用、出産、育児費用などの支払いに使う目的で非課税贈与
  • 制度は将来縮小・廃止の可能性があるので要注意

💡 贈与税対策の実践例(浪費癖のある子がいるケース)

対象者対策
浪費癖のある長男直接贈与せず「遺言信託」で月10万円ずつ給付(信託財産は相続扱いのため贈与税なし)
長女・次男暦年贈与で毎年110万円ずつ贈与、10年で1,100万円ずつ非課税贈与

贈与税対策のコツまとめ

対策非課税額特徴
暦年贈与年110万円/人コツコツ渡す。複数年+契約書作成がカギ。
相続時精算課税制度合計2,500万円相続時にまとめて精算されるが即時移転可。
教育資金一括贈与最大1,500万円信託活用。30歳までの子や孫が対象。
結婚・子育て資金一括贈与最大1,000万円使用使途限定。終了時期に注意。

今回は長くなりましたが、分からないことがあればお気軽に来所頂き、無料で相談に応じさせていただきます。

お問い合わせフォームからある程度の事情を書いていただけますと、対応がスムーズです。

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